初診日後の保険料納付について(資格取得の事務処理のミスがあった場合)

第5 事実の認定及び判断
1 上記審査資料及び審理期日における再審査請求代理人(2人のうち、B子の方。以下「B子」という。)及び保険者の代理人の陳述によれば、以下の各事実を認定することができる。
(1) 請求人は、平成8年9月20日に20歳に到達したが、翌9年6月12日、H病院を受診し、当該傷病と診断され、即日入院した。同人の国民年金保険料については、平成8年9月から同 17年11月までは保険料納付済期間、同年12月から平成18年6月までは保険料免除期間となっているが、平成8年9月分から同9年4月分の保険料は、すべて、平成9年7月8日に納付されている(資料1、同2及び同4)。
(2) 請求人は、当時I県に父母とともに居住(平成10年4月6日、J市に転居)していた。請求人及びB子が申し立てるところによれば、20歳到達直前の平成8年8月頃に、正確な名称は記憶していないが、縦長の葉書で「国民年金のご案内(兼加入届)」(以下「取得届」という。)が送付され、保険料の支払方法を口座振替又は納付書によるものから選択するようになっていたので、B子が請求人に代わって直ちに加入を申し出て、納付書による納付を選択して送り返したところ、いつまで待っても納付書が送られて来ず、平成9年6月末頃に突然に、手続が遅れたことに関する詫び状及び国民年金手帳(交付年月日は、平成9年6月27日)その他の一件書類とともに納付書(資料4及び平成9年5月から同年9月までの保険料に係るもの)が送られてきたので、それを受け取った後速やかに、平成8年9月から同年9月までの13月分の保険料を平成9年7月8日に支払った、とのことである。なお、請求人は、前記取得届を提出したことを証するものは残っておらず、また、「詫び状」も廃棄したので残っていないと申し立てている(資料5、同6及びB子の陳述)。
(3) 保険者によると、平成8年から9年当時のI県における国民年金の適用事務は、区役所が 20歳到達月の前月に資格取得の勧奨状(葉書)を送付し、取得届の届け出があれば適用し、取得届の届け出がない場合は、21歳から23歳の取得届未提出者に、毎年6月に再度、勧奨状を出していたとのことであり、前記(2)の請求人の申立て内容と矛盾していない。保険者は、「詫び状」自体の存在は、「区役所で適用もれの洗い出しを行った際に取得届が届出されていたことが判明したものと思われる」として、否定せず、それが平成8年8月の勧奨状に係るものか同9年6月の勧奨状に係るものか不明であるとするが、「詫び状」があったとすれば、国民年金手帳の交付すなわち資格取得の事務処理が平成9年6月27日に行われていることから、前者であることは明らかである。なお、平成8年9月分から同9年3月分までの保険料の納付書には「(未納)」の印字があるが、保険者によれば、過年度保険料が未納である場合は、1回目の納付書発行でも「(未納)」と印字されるとのことであり、最初に納付書が送付された後速やかに保険料を納付したという請求人の申立てと矛盾はしない(資料3、同4-1及び同6)。
(4) なお保険者は、平成8年ないし同9年頃において、当時、国民年金の適用関係業務を保険者から受託していた市町村、特別区において、本件で請求人が主張しているような納付書の送付漏れ等、不適正な適用事務執行が皆無でなかったことを認めている(保険者の代理人の陳述)。
(5) 審理期日において保険者の代理人は、請求人の障害認定日頃の当該傷病による障害の状態は、資料1から、国年令別表の障害等級2級の程度に該当する旨、陳述した。
2 上記認定した事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 平成9年6月末に請求人に対しI県が送付した一件書類は、国民年金手帳及び納付書を含むものであるが、それを、同区が平成9年6月に2回目の勧奨状を送付し、それを承けて請求人が加入を申し出たことに対するものであると解する余地がないわけではない。しかしながら、前記1の(2)ないし(4)で事実認定したところ及び一般的な事務処理サイクルからすると、1月に満たない期間内に全ての手続が完了したと推認するよりも、保険者が認めているように、「区役所で適用もれを洗い出し(注:2回目の勧奨状の送付のためのもの)を行った際に取得届が届出されていたことが判明」したので、あわてて、2回目の勧奨状送付の時期に、国民年金手帳、納付書その他の一件書類とともに詫び状を請求人に送ったとする方がはるかに自然である。そうすると、本件においては、保険者の適用事務が適切でなかったために、請求人の当該傷病に係る初診日の前日(平成9年6月11日)において、平成8年9月分から同9年4月分までの保険料が納付されていないという結果が生じた、と言わざるを得ない。
(2) このように、保険者の適切でない事務執行のために保険料納付の時期が遅れ、保険料納付要件を満たさなくなった場合、保険者が自らの過誤を棚に上げ、請求人が保険料納付要件を満たさないが故に障害基礎年金の支給を認めないことは、許されないと考えられる。行政法の分野においても信義則の適用があるものと解されているところ、そのような取扱いは、信義誠実の原則(クリーンハンドの原則)からしても、許されないことである。本件のような特段の事情がある場合には、平成9年6月11日において、平成8年9月分から同9年4月分までの保険料が納付されていた、とみなすことが相当である。